ガジュマルの木の下で-1

「一緒にさ、人間に紛れて学校行けたらいいと思わない?」

そう言って笑いかけてくれた彼。

あの瞬間を、私はずっと忘れることはないだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

私は沖縄に住むごく普通の女の子だった。

ある日、髪の色が変わってしまうまでは。

小学校3年生の時。突然髪の色が金色に変わってしまった。
最初は1時間ほどだったけど時間が経つごとに黒を保つ時間がどんどん減っていき、ついにはずっと金色の状態になった。
市販のカラー剤を試しても、はじいてしまいまったく染まらない。
その日から友達に会うのが怖くなり、学校に行くのも怖くなり…いわゆる不登校になった。

両親は共働き。そのため別に住んでいたおばあちゃん(お父さんのお母さんである)が同居することになり、日中も一緒に過ごしてくれた。
自分が特殊だということを忘れそうになるくらい、家族は私に普通に接してくれる。外に出ることはなかったけど、私は幸せだった。

でも、周りからの心ない噂はエスカレートした。家にいるのに少し恐怖を覚えるようになったのをきっかけに、私が小学校5年生になるタイミングで北部の人があまりいない場所へ引っ越そうということになった。

周りに何もない、静かな場所。
知っている人も誰もいない。

昔ながらの民家を改装したというその家は住みやすそうで、何より誰かに会うリスクが少ないことに安心した。

「広いお庭があるし、琉が外で遊べるね!すごくいい!」

そう言ってお家を決めてくれたお父さんには、本当に感謝の気持ちでいっぱい。

二日前に引っ越してきたばかりだけど、私はこの家が気に入っている。
まず、敷地内が高めの塀に囲まれていて外から中が見えないようになっている。
広い庭があり、そこには大きなガジュマルの木が。根元の方には石でできたベンチのようなものがあって、そこに座って読書をしたら気持ちよさそうだ。

台所で島らっきょうの皮をむいていたおばあちゃんに声をかけ、一人で庭に出る。

――――今日はお父さんもお母さんも仕事で朝からいないけど、休みの日にはお庭で一緒に遊びたいな。

そう思いながら、ガジュマルの木の下にあるベンチに座った。

上を見ると、幹と葉っぱの間から青空が見える。
…うん、気持ちいい。こんなに外でのんびりすることはしばらく無かったから、すごい解放感だ。

持ってきた本に視線を落とす。…あ、でもせっかくだから冷蔵庫から飲み物でも取ってこようかな。

そう思って立ち上がり一歩踏み出すと、急に強い風が吹いた。

「――ねえ」

…あれ?
誰かの声が聞こえた気がして、きょろきょろ周りを見渡す。

「後ろ」

今度ははっきりと聞こえた。

振り向くと、フードをかぶった男の子がガジュマルの木の上に座っていた。