ガジュマルの木の下で-3

おやつを食べ終わった3時ごろ。
私はまた、一人で庭にいた。

なんとなく「また後で」と言っていたのが気になって…。
彼がいたことを認めたくない自分もいるけど、どこかで現実の出来事だったのではと考えてしまう自分がいた。

「…まぁ、自分の妄想だったーとかならそれでいいし…」

ベンチに座って本を開く。
お気に入りの作者のシリーズで、最新刊をお母さんが買ってきてくれたのだ。

最初はガジュマルの木を気にしていた私だったけど、次第に本の内容に集中していた。
夢中で本のページをめくっていたと思う。だから全然気づかなかった。

「それ、面白い?」

「……!?」

突然背後から声が聞こえてきて、心臓が止まるかと思った。
でも振り向いて確信した。

――ああ、やっぱりさっきのことは夢じゃなかったんだと。

彼は「結局またびっくりさせたな」と呟きながら木からストンと飛び降りた。
私も本を抱いたまま、ベンチから立ち上がって彼のほうを向く。

さっきは動揺してあまりよく見てなかったから、ちゃんと観察してみよう。

年はやっぱり私と同じくらい。小学校4年生~6年生くらいかな。
背も…同じくらいかもしれない。
さっきと同じようにフードをかぶっていて、そこから覗く髪は

「………赤?」

私の声を聞いた彼はすぐに、ああ、と言ってフードを取った。

その頭はやっぱり真っ赤だった。

「だから、同類だって言ったでしょ?」

私はまた言葉が出てこなくて、ただ口をポカンと開けていた。

「…だから、俺は学校に通う普通の小学5年生。わかった?」

隣に座った彼はニコっと笑ってくれたけど…。
一通り説明を受けた私は、「やっぱり夢を見ているのかもしれない」と思った。

話によると、彼はキジムナーの血を受け継いでいるらしい。

キジムナーというのは、沖縄に伝わる精霊のようなものだ。
私もおばあちゃんに聞いたことがあったり、本で読んだりしたことがあるから知っている。
彼らは赤い髪を持ち、住みついた家は裕福になるとか。
人間にまぎれて暮らしているとか、いたずら好きだとか。
魚の左目が好きだとか、怒らせると人間を殺してしまうとか…嬉しいものから怖いものまでいろんな言い伝えが残っている。

そんなキジムナーの血を継いでいる彼は、ガジュマルの木がある場所を移動する力を持っているらしい。私が知っている言い伝えにはなかった力だ。
正確に移動するには現在地との位置関係が頭の中に入っていないといけないらしいけど、その力を使って、この家の木には小さいころから一人でよく来ていたことも教えてくれた。

説明が終わっても眉間にしわが寄ったままであろう私をみて、彼は笑っている。
だって仕方がない。全然普通の小学5年生ではない。

「信じられない!って顔してるけど、自分も特殊だっていう自覚はあるんじゃないの?」

「う……」

そうだった。彼みたいなものすごい力はなくても、私の髪は特殊だ。

ここまで打ち明けてくれた彼だから大丈夫かな。
髪を染めていると言い張る選択肢もあったけど、なぜか彼は私を「特殊」だと知っている。
もうこの髪を見られていることもあり、私のことを話してみようと思った。