ガジュマルの木の下で-4

「…私、9歳のころに突然髪がこの色になった」

「うん」

「どうやっても元の色に戻らなくて…ずっとこのままなの…。…それだけ」

私の髪は特殊だとわかっていた。9歳のあの時から。
お父さんもお母さんもおばあちゃんも普通に接してくれているから、最近はあまり気にならなくなっていたけど、こうして話していると不安が押し寄せてくる。

どう見ても外国人の顔ではない私。
誰も知っている人がいないところまで来たとはいえ、私を見た人たちは驚くだろう。
そして、良くない噂がまた…。

――――私、ずっとこのまま家から出られないのかな?
ずっと家族に心配かけたまま、誰ともかかわらずに生きていくの…?
でも怖い、私が「特殊」だとばれてしまったとき、畏怖の対象として見られるのがどうしても…。

考え始めると胸が押しつぶされそうになる。
これまで考えないようにしてきた反動か、どんどん悪い想像ばかりしてしまう。

顔が、目が熱くなってきて、視界がにじんできた。

「…そんな思いつめなくてもさ、もっと大きくなったら『染めた』って言えば周りも納得するだろうし」

…それは、そうかもしれない。彼の言葉を聞いて、少しだけ冷静になる。

「それに俺、普通に学校行ってるって言ったよね?」

……そうだった!
希望を見つけた気がして、ばっと隣の彼を見る。

夕焼けが照らす彼の髪は赤くて、さっき見た時よりもキラキラ輝いていて。

「一緒にさ、人間に紛れて学校行けたらいいと思わない?」

…私、普通の人間だけど。そう呟いた声がまだ泣きそうだったからか、彼は楽しそうに笑うのだった。

「…ということで、これから俺と特訓しよう」

「特訓…」

私が落ち着くのを待ってくれた彼の名前は、希絃(きいと)というらしい。
普通最初に名前を言うものなのでは?と思ったけど、人のことは言えないので口にするのはやめておとなしく私も名乗っておいた。

それはそうと、練習したら髪の色を黒くできるということだろうか?
彼の次の言葉を待つ。

「俺のじいちゃんが持ってる本?の中に、琉みたいな人のことが載ってるんだって」

「え!?本当!?」

実は、一度おばあちゃんから聞いたことがあった。沖縄では「髪の色を変えられる人が生まれてくることがある」という話を耳にしたことがあると。

でもそれ以上の情報はお父さんやお母さんがどれだけ探しても出てこなくて、よくわからないままだった。

「うん。その人は島に愛されていて、幸せになる運命にあるーとかなんとか」

「…なんか、すごくふわっとしているような」

「まぁ確かに。でもその人はさ、俺みたいに黒だけじゃなくて、髪の色を自由に変えられるらしい。それこそ赤でも青でも緑でも…もちろん黒でも」

その話を聞いて驚いた。

自由に髪の色を…?それに何の意味があるかはわからないけど、すごい。
私が今一番変えたい色は黒だから、それができるようになれば学校に通えるかもしれない。

「私、練習したい!髪を黒くできれば学校に行けるもん」

「そうだね。俺も小さいころは練習したし、その方法でやってみようか?」

そうだ。目の前にいる人は髪の色を変えられる人なのだ。

こんなにワクワクするのはいつぶりだろう?

「はい!師匠!」

こみあげてくる嬉しさを隠せずに思わず笑顔で返事をすると、「なんだそれ」と希絃はまんざらでもなさそうに笑った。