「えっ……?」
言葉が何も出てこなかった。
どうしてこの人はうちの木の上に?それよりもどうしよう、この髪を人に見られてしまった。
またここにも居られなくなる?お父さんとお母さん、おばあちゃんになんて言えばいい?
いろんな考えが頭の中を駆け巡る。
でもまっすぐにこちらを見ている彼から目をそらせず、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても。俺たち同類だし」
そう笑って言われても、余計に頭が混乱した。
同類ってどういうこと…?思い当たることは一つしかない。でも、フードから覗く彼の髪の色は
……真っ黒だ。
「なんかびっくりさせちゃったし、また後で来るよ」
彼はそう言うと立ち上がり、次の瞬間にはいなくなっていた。
目の前の光景が信じられなくて目をこすってみる。
でもやっぱり、そこにはもう誰もいない。
?????
今の、何?
一瞬男の子が現れて、消えて、でも今は誰もいなくて…。
風が吹いて、サワサワと木が揺れている。
…最初から誰もいなかったのでは?
そうだよね、だって私の家の庭だもん。
それか、オバケとか…?
…昼間だというのに、考えたらちょっと怖くなってきた。
おばあちゃんのところに行こう。
ベンチに置いていた本を手に取り、私は家の中のおばあちゃんを探した。
「ねえ、おばあちゃん。近くにお家ってなかったよね?」
あのあと台所にいるおばあちゃんを見つけ安心した私は、畳の部屋で本を読んで過ごした。
前に住んでいた家には畳がなかったので、密かに憧れていたのだ。
しばらくするとおばあちゃんがおやつにりんごを持ってきてくれたので、一緒に食べながら質問しているところだ。
「今は使っていないお家ならね。人が住んでいるところだと、歩いて1時間くらいのとこには何軒かあったはずよ」
おばあちゃんは不思議そうに教えてくれる。
変なこときいてごめんねおばあちゃん。前にも聞いた内容だし、歩いて1時間…それは近くはない。よね?
あの男の子は、私と同じくらいの年齢に見えた。だとしたら普通は学校に行ってる時間だよね、今日は平日だし…。
学校もここからだと歩いて1時間以上かかるらしいし、こんなところに簡単に来れるはずがない。
仮に来たとしても、突然現れて消えるようなことはない。私だってもう現実と夢の区別はつくくらいにはお姉さんなのだ。
「そうだよね、ありがとう」
やっぱりさっきのは夢か幻だ。慣れない環境に来て、少し気が張っているんだな、私。
そのあとは「ここはのどかでいい場所だね」とか、「今度お庭でピクニックしようね」など、他愛もない会話をして平和な時間を過ごした。